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早朝、フェリーが別府港に到着した時は、あいにくの小雨模様だった。
その日、別府観光していた頃には一旦止んでいた雨も、
湯布院の宿に辿りついた頃には再び降りだしていた。
宿に入るとすぐに、毛を綺麗に刈り揃えられた"真っ白"な猫が目に付いた。
入ってきたぼくらのことを特に気にする風でもなく、おそらくはいつものように、
指定席らしい椅子の上でまるくなっていた。
夕飯をご馳走になっていると、今度は、毛を綺麗に刈り揃えられた"真っ黒"な猫が目の前を横切った。
「あれ?」、さっき見た猫が真っ白だったっていうのは、実は錯覚ではないかと一瞬自分を疑いたくなるような不思議な感覚。。。
次の日も小雨模様は相変わらずだった。
朝食の後、あちこちに飾られているアンティークな品々を眺めながら、宿の中を探検させてもらった。
この頃から、なんとなくだけれども、二匹の猫がそれぞれ随分違う反応を示していることを感じ始めた。
真っ黒いのは、どうもぼくらのことが気に入らないらしい。
カメラを向けるとじっとこちらを睨み付ける。「あんだよ、こら!」ってな感じ。
真っ白いのもカメラを向けるとじっとこちらを見る、けれどもそれは睨み付けるのとは違う。
なんだか写真に撮られることを意識して、ポーズをとっているよう。
カメラを他の物に向けている間も、真っ白い猫は逃げる訳でもなく、
また、擦り寄って甘えてくる訳でもなく、適当な距離をおいてぼくらのことを見ているようだった。
キッスは一瞬の出来事だった。
ぼくが椅子に座っていると、真っ白い猫が椅子に備え付けのテーブル伝いにするすると寄ってきて、目の前に顔を近づけてきた。
こちらも調子を合わせるように顔を近づける。。。と向こうから、チュッ!!っと。
それまでの非現実感は、この出来事でピークに達したが、
それでも、猫の口の湿った感触が少しだけ実感を与えてくれた。
「さぁ、そろそろ出発しないと。。。」
するとその猫はまるで言葉を理解しているかのように、その場に座り込んで、恨めしそうにこちらを見た。
その目はこんな感じ。。。「そう、、やっぱり。。。あなたも行っちゃうのね。」...
なんだか不思議な感覚のまま、ぼくらは宿を後にした。(み)
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