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ウメエダシャク

「芋虫飼いたい」
最初にその言葉を聞いたときは正直耳を疑った。
「えっ!?芋虫を飼う?なんでまた?」
「さなぎになって蝶や蛾になるのを見たいんや」
「芋虫って、どこにおるん?」
「交番の前の桜の木」
毎朝集団登校のとき(りょ)がみんなを待つ場所だ。

3年生になって、朝の登校時、父ちゃんはそこまでついていくのを止めた。今は(りょ)がひとりで国道を渡ってそこへ行くのを、陣屋門から見守るのみ。そういえばみんなが来るのを待つ間、ひとりで桜の木の下に茂ったひこばえをよく凝視してたっけ。でも、その場で観察するだけならまだしも、それを家に持って帰りたいだなんて、。
「だって、夏休みの自由研究になるかも知れんやろ」
「えーっ!?、そうかぁ??、なんとまぁ気の早い、、」

まぁともかくそういう訳で、去年ダンゴムシをいっぱい捕まえて入れて、そのままカラカラに乾燥させ、全滅させてしまったままのケースを、中身を出して芋虫観察用に転用することにした。あと、母ちゃんには知らせても、決して中身を見せたらあかんで、と強く言って聞かせておいた。

5月24日のことだった。(りょ)が枝ごと家に持ち帰ってきたのは2匹。ひとつは毒々しい黄色に黒い筋、体の周りに黒いヒゲがまばらに伸びた、間違っても触れ合いたくないタイプ。(りょ)自身も観察日記に「きもちわるい」と書いていた。そんなのを持って帰ろうと思うのが父ちゃんには理解できんわけだが、。調べたら「ウスバツバメガ」というらしい。成虫は意外にも結構綺麗な色と姿をしている。

で、もう1匹は黒と茶色のまだら模様の大きな尺取り虫。これも調べた、その名は「ウメエダシャク」。「しゃくとりむしだからそんなに気持ち悪くなかったです」とか書いてるけど、そーかぁ?、普通に気持ち悪いけどなぁ、。

それから4日後、早くもさなぎになろうとしてた。予想外に早い展開だ。

そして今日、学校から帰った(りょ)がケースをのぞくと、何かが飛んだ。
よく見ると、いかにも「蛾」な姿をしたのが1匹、ケースの蓋にしがみついていた。
「成虫になった!」
大喜びだ。左上、金色ボールペンで書かれた「やったぁ〜」の文字にその気持ちがよく表れてる。

成虫になる前からネットでその姿は調べていたので大体は想像してた通りなんだけど、意外だったのは、蛾なのに、図らずも「かわいい」とか思ってしまったことだ。いや、この姿形は普通に出会っただけなら決して「かわいい」なんて思うタイプじゃない。それなのに、だ。

羽化したばかりだからか、それとも狭いケースに閉じ込められていたからか、ヨタヨタ頼りなげに歩きながら、羽ばたきもか弱く、とても飛べるような気がしない。思わず翅をつまんで指先に乗せて、目の前に高く掲げてみたりして、。普通このタイプの蛾をそんな風には扱わんでしょ、、普通は、、ねぇ、。

最初はちょっと尻込みしてた(りょ)も、父ちゃんがそんなんしてるのを見て、やがて自分から指先に乗せてみたり、。

しばらくはそんな風にかまってみたけど、相変わらず飛び立つ気配も全くないので、仕方なく陣屋門の柵の上の方にとまらせて、あとは自然に任せることにした。

追記:
翌日の朝も同じ場所にじっとしてたけど、お昼過ぎにはいなくなっていた。元気になって飛び立ったんだ、と思うことにしよう。(りょ)も、朝はまだそこにいることを心配した様子で登校していったけど、帰宅して、いなくなったのを確認すると「よかったね」とうれしそうに言った。

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